ドイツに留学した演奏家のプロフィールによく出てくる「ドイツ国家演奏家資格」という資格の話。
興味があったので、ちょっと調べてみました。
まず、この資格がどんなものか?というお話から。日本でこの手の国家資格というと「演奏家として活動するために必須のもの」と思われるかもしれません。しかし、少なくともドイツでは演奏家として活動するために資格は必要ありません。資格なしで演奏会を開催しても、少なくとも法的な問題にはなりません。
では何のためにこんなものがあるのか?
ドイツ政府が、国家資格として「演奏家」の認定を行うことで、クオリティのコントロールを行っているわけです。実にドイツ的な発想と言えるでしょう:ドイツは「マイスター」の国です。つまり、伝統的な教育と試験によって「一流の伝統保持者」を認定するというシステムがありとあらゆる業界に確立しています。
つまり、ドイツ(=西欧の国ということを思い出してください)がクラシック音楽のクオリティを維持するために演奏家を認定する、それがドイツ国家演奏家資格です。
日本で演奏家のクオリティ保証がどのような形で行われているか考えてみます。「実際に聴く」という手段を除けば、典型的にはコンクールの受賞歴によってクオリティが判断されることが多いでしょう。特に「第三者的な視点からクオリティを保証する」システムとしてはコンクール受賞歴以外ほとんど機能していません。では、「コンクールに受かる」というのはどういうことなのでしょうか?そして、その効力はどのくらいあるのでしょうか。
現実問題、いまの日本の音楽事務所は「国際コンクール最高位受賞」や「レコ芸特選」さえも判断基準にならない、正確にはこれらの実績では「音楽事務所としてサポートするに値する演奏家である」と判断してはもらえません。しかし、これら以上のステータスは「国際コンクール」や「レコード芸術」の文脈には存在しません:ということは、これらの文脈は判断基準として機能していないということです。
さらに言えば、コンクールのシステムには(少なくともクオリティ保証手段として使おうとしたら)問題があります。少なくともコンクールはその大半が「競争」のシステムであり、クオリティ保証を目的としたシステムではありません。。一つのコンクールにレベルの高い演奏者が何人殺到しようとも、入賞者はごくわずかです。コンクール入賞者が良い演奏者だということを(百歩譲って)認めたとしても、コンクール入賞者でなければ良い演奏者ではないとは決して言えません。
それに対して、ドイツ国家演奏家資格は良い演奏者が何人もいればその人たち全員に資格が付与されます。しかも、その資格がなければ(法的な意味で)演奏活動が展開できないというわけでもありません。
演奏家資格のシステムは、、演奏者・芸術家に対する評価システムとしてはほぼ理想的に機能しているのではないでしょうか。唯一の問題があるとすれば、ドイツに滞在せずに取得することはおそらく不可能だということですが(笑
#この話は、しばらく前に話題になった「日本政府が海外での『正しい日本食』を認定する」という話とも近いものがあります:日本政府が認定しなかった日本食は日本食ではない、ということは違いますが、日本政府が認定した日本食はすべて「正しい日本食」と言えるものだ、という意味で。
by Kasumoerer, on 7月 28 2008 @ 9:55:12
この国家演奏家資格。外国人でもとれちゃうので、そんな厳しいハードルではないみたいです。(ロシアのグランドドクターはいまだに日本人の取得者はいないはず)ドイツにいってきましたが、ぱっとしない演奏家が多かったね。TONKUNSTの学生の演奏風景も耳に入ってきましたが、似たようなものです。ピアノ上手い人が、サークルを作って動けるのは日本だけですよ。
by あかみ, on 7月 28 2008 @ 11:42:24
そうですね。「厳しすぎず、しかし甘すぎず、そして信頼できる」資格であるということが、とても重要だと思います。
「取るに値する人であれば確実に取れる&取るに値しない人は取れない」資格でなければ、その資格を軸にしたシステムはどうしても歪むに一票:典型例が旧司法試験。